私はこれまで産婦人科医として数え切れないほどのお産に立ち会ってきました。
その中でも、今でも忘れられない一人の患者さんがいます。

妊娠初期に少しの出血があり、他院で「絶対安静」を指示された彼女。
家事も仕事も辞め、ベッドから動かない日々を数週間続けました。
その結果、彼女を待っていたのは「赤ちゃんの無事」だけではなく、自身の足の血管に大きな血栓(血の塊)ができるという深刻な合併症でした。
度重なる入院、点滴、そして「動いたらいけない」という恐怖。
彼女は結局、一度も心から笑顔を見せることなく、ただ耐え忍ぶだけの10ヶ月を過ごし、心身ともにボロボロになって出産を迎えました。
「先生、私は何のためにこんなに苦しんだのでしょうか?」
出産後に彼女が漏らしたその言葉が、今の私の活動の原点です。
なぜ、医療者が「不要な不安」を植え付けてしまうのか

出血があるなら、念のためずっと寝ていてください。
それが母親の役目です。
こんなふうに言われたことのある方も、少なくないかもしれません。
ですが、妊娠初期の出血や切迫流産診断時の ”安静” については、その有効性(流産予防効果)を示す確実なエビデンス(医学的根拠)は現在のところ存在しません。
むしろ、多くの研究で「根拠のない日常的な安静を推奨しない」とされています。1)
一方で、妊婦さん自身が活動制限を希望する場合や、短期間の安静が心理的安心感につながる場合には、その希望を尊重することは妥当であると考えられます。2)
大切なのは、「医学的に必須だから」なのか、「安心したいから」なのかを、本人が理解した上で選べることです。
では、なぜ医師が「とにかく安静に」「何かあったら困るから」と、過度な不安を植え付けてしまうのでしょうか?
ここからは私見も含みますが、いくつか要因があると思っています。
- 古い常識がアップデートされていない
- かつての教科書や先輩医師から「切迫流産=安静が標準」と学んだことをそのまま実践し続けている
- 「効いているように見える」錯覚
- 胎児心拍確認後の妊娠継続率は85-97%であるため、結果的に「安静が有効だった」と見える2)
- 「多くの医師が勧めている=きっと有効だろう」という誤った推論
- 訴訟リスクを避けたいというプレッシャー
- 「何もしてもらえなかった」と言われることを恐れ、エビデンスがハッキリしなくても“何か介入した”という事実を作ろうとする傾向が、医療全般にあります。3)
- この「防衛的医療」が、必要性の低い安静指示や治療につながることがあります。
- 「良い母親なら当然」という、見えない圧力
- 「赤ちゃんのために、できることは全部してあげたいですよね?」
そう言われたら、多くの妊婦さんは「NO」と言えません。 - 妊婦さんは、医師の専門知識に依存せざるを得ない立場にあり、疑問や反論をしづらい構造があります。
- 医師側も無意識のうちに、「良い母親ならガマンすべき」という道徳的圧力を使ってしまっている場合があります。
- 「赤ちゃんのために、できることは全部してあげたいですよね?」
「おめでとう」の後に続く、終わりのないガマン
妊娠がわかった瞬間、あんなに嬉しかったはずなのに。
気づけば「あれはダメ」「これは控えて」という、終わりのないガマンの毎日になっていませんか?
ネットやSNSを開けば、不安をあおるような情報ばかりが目に飛び込んできます。
本来は安心を届けるはずの医療者からさえ、「念のため」の一言で過度な制限を求められることもあります。
産婦人科医として、私はこれまで多くの妊婦さんたちの「ガマン」を見てきました。
だからこそ、私はこの「耐える10ヶ月」という古いイメージをアップデートしたいと思っています。
あなたが自分らしく、納得しながら、豊かに過ごせる10ヶ月に書き換えていきたいのです。
「プラットフォーム・ウィメンズ・ラボ」が約束すること
あなたが「主役」の妊娠生活を
医師の指示を待つだけの10ヶ月ではなく、
あなた自身が情報を理解し、納得して選択できる10ヶ月を支えます。
余計な不安を植え付けない
あなたの「知りたい」に対して、
誠実に、そしてロジカルに向き合います。
「不安にさせて行動させる」のではなく、
「理解して、自分で選べる」状態を一緒に目指します。
新しい医療のかかり方を提案する
オンラインツールやテクノロジーを活用し、
通院の負担や待ち時間のストレスをできるだけ減らした、新しい形の医療のかかり方を模索していきます。
「これくらい我慢するのが当たり前」ではなく、
スマートで、ストレスの少ない「新しいスタンダード」を、あなたと共に創りたいと考えています。
妊娠は、本来「耐える期間」ではありません。
あなたの10ヶ月を、ガマンだけで終わらせず、
一生の宝物になる時間に変えていくために。
私はこれからも、エビデンスと臨床経験の両方に基づいた情報を発信し続けます。